症例2 左下第一大臼歯の感染根管治療において、選択的に歯質を削除することで起炎因子を除去し奏功した症例
治療前後の比較です。
根管治療の目的は、抜髄根管では根尖病変を作らず、感染根管では根尖病変を治し、歯の延命効果を図る
ということに尽きます。
そのための原則は、診断に基づいた根管内の徹底的な拡大清掃と消毒、根尖部での緊密な封鎖です。
複雑な形態をした根管においてこれらを達成するために、CTおよびマイクロスコープを有効活用して起炎因子を除去したケースについて報告します。
37歳男性 左下の奥歯が3日前からズキズキ痛い、という主訴で来院されました。
来院時の痛みが非常に強く、前日は一睡もできなかったと言われておりました。
初診時のレントゲン写真です。
左下第二大臼歯(奥から2番目の歯)の根尖部に大きな透過像(黒い像)を認めます。
病変の広がりおよび根管の形態を確認する目的でCT撮影を行いました。
原因歯は近心根(手前の歯根)と遠心根(奥の歯根)の2つの根を有しています。
遠心根の周囲に大きな透過像を認めたため、痛みの原因は遠心根にあると予測を立て処置に入りました。
遠心根(赤い線の部分の歯根)について詳しく述べてみます。
遠心根はCT画像から、根管の形態が図で示すタイプⅦを呈していることがわかりました。
(例えば人それぞれ腕の皮膚の下の血管の走行が異なるように、根管の形態にも個人差があります。
形態は様々なバリエーションがあり、主に図の8つのタイプに分けられます。)
初診時の処置で急性症状は落ち着きましたが、2回目来院時、根管からの排膿が微妙に残っていたため、
赤矢印の部分に起炎因子が残存している可能性が高いと判断しました。
そこで赤丸で囲った部分を除去することで
根管形態を図のようにタイプⅤに変更し起炎因子の除去を徹底的に行うこととしました。
マイクロスコープの画像です。
マイクロスコープで拡大しながら青矢印の部分の歯質を慎重に除去します。
歯質を選択的に除去し、根尖まで視認できる状態となりました。
その後、根尖からの排膿がなくなり、根管充填ができる状態となったため、根管充填を行いました。
痛みな腫れなどの症状は全くなく、3年以上経過しています。
レントゲンにて術前にあった透過像は縮小傾向にあり症状もなく安定しています。
CT画像においても、根尖部の透過像は縮小傾向にあり、根尖周囲組織が再生してきている様子がうかがえます。
(青い◯で囲った部分)
失活歯(生活歯髄を有しない歯)は歯質の乾燥により脆くなり、生活歯(生活歯髄を有する歯)と比較して破折を起こしやすいといわれています。
この歯がいつまで持つかはわかりませんが、まだ30代という若いご年齢を考慮すると、安易に抜歯することは避けたいと考え、このような治療を選択しました。
結果的に、現時点では安定しておりますが、経過観察が必要です。
本ケースにおける詳細
主訴 :左下の奥歯が3日前からズキズキ痛い
診断名:左下第一大臼歯 慢性根尖性歯周炎
年齢 :37歳(初診時)
性別 :男性
治療期間・回数: 約3ヶ月・10回程度
治療方法:左下第一大臼歯に、感染根管治療後、メタルコアにて支台築造を行い、セラミック冠にて歯冠修復を行った。そのほか、全顎的に歯周病の治療を行なった。
費用: メタルボンドクラウン 税込86,400円 (治療当時価格)
デメリット・リスク
根管の形態が複雑な場合や歯根破折が認められる場合は病態が治癒しない場合がある。
根管治療により、術中、術後に痛みや違和感が出現する場合がある。
通常の根管治療において奏功しない場合、外科的処置や抜歯が必要になる可能性がある。
歯根破折が起き抜歯が必要となる可能性がある。
メタルボンドクラウンは経年的に磨耗または破損することがあり再製作が必要となる可能性がある。
根管治療でお悩みの方は当院までお気軽にご相談ください。
福山市御門町の歯医者 マイクロエンド(マイクロスコープを用いた精密な根管治療)のことなら
やまもと歯科