症例33 近心根中央付近の穿孔により分岐部病変を生じた右下第一大臼歯に対して非外科的処置に対応した症例
41歳女性
主訴:右下の奥歯が痛い
右下第一大臼歯は、他院にて再根管治療を繰り返していた経緯があり、最終的に前医にて治癒不能の診断を受けたとのことです。初診時に、可能であれば右下の奥歯を残したいと言われておりました。
初診時のレントゲンにて右下の第一大臼歯は根管治療がなされており、分岐部(赤丸部分)に透過像を認め、分岐部病変を呈していることが分かります。
前医が抜歯判断をするほどだったということなので、状態は芳しくないのかもしれませんが、基本的な検査を行い、この歯に起こっていることを慎重に診断することとしました。
歯周ポケットを測定したところ、分岐部病変との交通は認めなかったため、分岐部に穿孔(併発症の一種で、歯髄腔から歯根表面に達する人為的な穿通。原因としては、診療器具の不適切な操作などが挙げられる。)が存在する可能性を疑いました。穿孔に対するリカバリー処置としては、穿孔部を封鎖するか、穿孔部が大きく閉鎖不可能な場合や、予後不良な場合は、外科的に穿孔部を閉鎖するか、意図的再植やヘミセクションなどが行われます。
穿孔部が大きく感染している場合や、歯根破折を併発している場合は、抜歯が必要となる可能性もあります。
以上のことから、穿孔が存在する可能性があること、そしてそれを封鎖できると治癒するかもしれないが、歯根の状態によっては治癒しない可能性もあるということを患者様にご説明させていただきました。
歯科医療においては技術もさることながら、大前提として大切なことは、患者様にこれらの情報を正確に提示することと、患者様自身が治療方針についてご自身で考え、意思決定をしていただくことだと考えています。
患者様はご自身の歯の状態をしっかりと受け止められられ、治療のメリット、リスク等をご理解された上で、治療をご希望されたため、治療をさせていただくことなりました。
予想通り、近心根の内壁に穿孔が認められましたが穿孔部からの出血や浸出液や排膿のコントロールも比較的簡易だったため、
前述の通り、この症例において、分岐部病変と歯周ポケットは交通しておりませんでしたので、症状を改善するためには穿孔部を清掃、拡大し、確実に封鎖することと判断しました。
通常の根管充填材で封鎖可能と判断したため、エルビウムヤグレーザーを併用し、根管内を洗浄後、根管充填を行いました。
根管充填後のレントゲンです。
穿孔部から根管充填材の一部が逸出していることがわかります。
根管充填は根管内を緊密に封鎖するために加圧するため、このように材料の一部が逸出することがありますが少量であるため人体に害はないと考えております。
根尖部は石灰化しており穿通しておりませんが、根尖の病変を認めないため、問題ないと判断しております。
根幹充填後、テンポラリークラウン(仮歯)にて機能性、清掃性に問題がないことを確認し、最終補綴装置を装着しました。
最終補綴装置を装着し、治療後のレントゲンです。
分岐部の歯槽骨の再生を認めます。まだ経過が浅いため完全に正常像とはなっていませんが、経過観察を続け、また時間をおいてご報告させていただきます。
患者様は痛みがなく食事ができ、大変喜んでいただくことができ、当院としてもとてもよかったです。
当院においてルーティンで行われる日常臨床の1ケースのご紹介でした。
当院では、歯をできるだけ長持ちさせるためには基本的な処置を基本通りに行うことが大切であると考えております。
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本ケースにおける詳細
主訴 :右下の奥歯が痛い
診断名:右下第一大臼歯 慢性根尖性歯周炎、近心根遠心壁の穿孔疑い
年齢 : 41歳(初診時)
性別 :女性
治療期間・回数: 約5ヶ月・約10回
治療方法:右下第一大臼歯に、感染根管治療後、レジンコアにて支台築造を行い、金属鋳造冠にて歯冠修復を行った。そのほかに全顎的に歯周病の治療を行なっている。
費用:11,540円(保険診療範囲内 3割負担の場合)
デメリット・リスク
根管の形態が複雑な場合や歯根破折が認められる場合は病態が治癒しない場合があります。
根管治療により、術中、術後に痛みや違和感が出現する場合があります。
通常の根管治療において奏功しない場合、外科的処置や抜歯が必要になる可能性があります。
歯根破折が起き抜歯が必要となる可能性があります。
金属鋳造冠は経年的に磨耗または破損することがあり再製作が必要となる可能性があります。
根管治療や歯周病治療でお悩みの方は当院までお気軽にご相談ください。
福山の歯医者 やまもと歯科