症例10 直接覆髄法(大きな虫歯でも神経を残す治療)
患者さんは30代男性、右上の奥歯が冷たいものでしみるということで当院を来院されました。
お口を見てみると右上の第一小臼歯に虫歯で大きな穴が開いていることが分かります。
虫歯の進行具合を調べるため右上の奥歯のレントゲンを撮影させていただきました。
赤い丸で囲んだ部分に黒い影が写っています。
このように、虫歯菌で歯に穴が開くと、レントゲン上では歯が黒く透けて見えます
ひとことで「むし歯」と言っても進行の程度で症状や治療法が大きく変わってきます。
このケースの場合、象牙質虫歯(C2)あるいは神経まで達した虫歯(C3)の可能性があります。
ただし、C2なのかC3なのか、レントゲン上では判断がつかないこともあります。
C3以上では歯髄が非可逆性の炎症を起こしているため、抜髄(歯髄を完全に除去する術式)が必要となることが多いですが、
抜髄を行なった場合、残念ながら歯の寿命がかなり短くなることが統計データからわかっています。
長期的に考えたら歯髄を残すことは歯自体を残すことに繋がるのです。
また「歯の治療のスパイラル」をストップ、あるいは遅らせることは
将来的に何度も何度も治療を繰り返すことによる時間やコストを抑えることにも繋がり、
人生において非常に意義があると言えます。
もちろん、治療後は、定期的な口腔全体の管理が大前提です。
C3の状態でも歯髄が不可逆的な炎症を起こしていなければ直接覆髄法(直接、歯髄の上にお薬を起き、歯髄を守る治療方法)
を行えば歯髄が残せる可能性があります。
事前に、C3に達している可能性についてご説明したところ、患者さんは、もし歯髄まで達する場合、歯髄温存を選択するという選択をされました。
、
露出した歯髄をMTAセメントで直接覆髄した状態です。
この後コンポジットレジンにて、細菌が侵入しないように封鎖しました。
その後経過観察を行なった後、症状が落ち着いていたため、
セラミックの詰め物の型取りをして最終的な詰め物を装着しました。
痛みやしみる症状もなく経過しております。
ただし、直接覆髄を行なった歯はしばらくは症状がなくても、何ヶ月後、あるいは何年後かに症状が出ることがあります。
直接覆髄をする以前から、あるい処置後に歯髄の壊死がダメージを受けて始まってしまうことがあるからです。
歯髄壊死は長期間にわたって徐々に進行することがわかっています。
そのため、術後数日や数週間で直接覆髄が奏功したかどうかは確実には判断することができません。
当院の場合は1週間以上経過観察をし、症状がなければ早めに最終的な詰め物で修復するようにしております。
細菌の侵入を許してしまうと直接覆髄は失敗することが分かっており、早めに精度の高い最終修復まで行なった方が成功率を上げられると考えます。
もし、症状が出てしまった場合は、断髄(歯髄を途中まで除去し根っこの部分の歯髄は温存する術式)
、あるいは抜髄(歯髄を完全に除去する術式)を行うようにしております。
このような不確実性があったとしても、歯を守る可能性にチャレンジすることは、意義が大きいと考えております。
もちろんのことですが患者さんの理解と納得があった上で成立します。
歯の保存、歯髄の温存にご興味がある方はお気軽にご相談くださいね。
本症例の詳細
主訴:右上の奥歯が冷たいものを飲むとしみる
診断名:右上第一小臼歯 歯髄付近にまで及ぶう蝕
年齢・性別:35歳・男性
治療期間・回数:3回・2ヶ月
治療方法:局部麻酔下においてう蝕を除去し、MTAセメントにて直接覆髄を行い、症状の改善を確認後、セラミックインレーによる修復治療を行なった。
費用:税込100,000円(治療当時の金額、消費税別)
デメリット・リスク:
・術後の疼痛が生じる可能性がある
・経年的に歯髄が失活することがある
・修復物は脱離または破損する可能性がある
・定期的な清掃、ブラッシング指導などの口腔管理が必要である
この症例は自由診療ですが当院は保険診療も行なっており、当院は治療前に十分なカウンセリングを行なったのちに
患者さんに治療方法を選択していただくシステムをとっております。
また全ての症例が同様な結果となる訳ではなく、術前の状態によっては治療方法や術後の結果も変わってきます。
ご気軽にご相談ください。
福山市 御門町の歯医者 やまもと歯科